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美味しそうな物語 ~食欲の秋に読みたい絵本・児童書3選~


秋といえば、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋、など過ごしやすいこの季節に楽しみたい様々なコト・モノが盛りだくさんな季節です。しかし、なんといっても子供たちが楽しみにしているのは「食欲の秋」ではないでしょうか? 「秋」刀魚と書くさんまはもちろん、きのこやブドウ、栗、りんごなど、秋の味覚が食卓に並んでいると思います。


この記事では、そんな食欲の秋に読みたい、絶品の児童書を紹介します。ワクワクがはじけるような、はたまた、じわっと優しさがとろけるような、それとも、ピリッと辛口の描写にしびれるような、そんな物語で、食欲の秋(そして読書の秋も!)を満喫してみませんか?


おおきなおおきな おいも

市村久子 原案

赤羽末吉 作・絵

福音館書店

実話を元にした幼年童話

楽しみにしていたいもほりが雨で延期になった代わりに、あおぞら幼稚園の子どもたちは、大きな大きなサツマイモを絵に書くことにします。とても大きくなったサツマイモをどう掘り出すか、子どもたちの空想はとどまるところを知りません。実際の幼稚園での遊びから生まれた絵本で、子どもたちの計り知れない想像力を楽しめます。

赤羽末吉のユニークな絵も特徴的です。黒い線と、絵筆の元気なタッチが残る紫色の絵の具のみで描かれた世界なのに、子どもたちのエネルギーが溢れ出しています。

いつの間にか、単なる絵だったサツマイモが、船になったり怪獣になったりと、空想の世界で実物として息づく様子も圧巻です。幼年童話ならではの、現実と想像が絡み合い、間の垣根がなくなって、子どもたちが両世界を自在に行き来することができるという性格が実話を引き立てています。

こそあどの森の物語 ふしぎな木の実の料理法

岡田淳 作

理論社

木の実でつながるいろいろな人

「こそあどの森」シリーズ第1作。無口で独りで過ごすのが好きな少年スキッパーのもとに、南の国へ研究に出かけた家族のバーバさんから贈り物が届きます。その中身は、「ポアポアの実」という見たことのない木の実でした。料理するためのレシピは雪でにじんでしまい、読めなくなっています。その上、木の実は硬い殻に覆われているのです。調理法を知るために、スキッパーは勇気を出して、「こそあどの森」に住む隣人を訪ねることに……。

ゆったりと流れるストーリーや文体はどこか海外小説を思わせ、好き嫌いが分かれるかもしれません。特に、岡田淳のストーリー展開が早い作品が好みだと、ほのぼのとした展開に拍子抜けしてしまうかも。けれども、主人公スキッパーとバーバさんが住むウニマルをはじめ、「こそあどの森」の人たちが住む家の断面図は必見。長く続くシリーズだからこその作りこまれた世界観に思わず魅入ってしまいますよ! 「一人だけど、独りじゃない時間」の大切さが染み込んでくる作品です。


チョコレート工場の秘密

ロアルド・ダール 作

柳瀬尚紀 訳

クウェンティン・ブレイク 絵

評論社


ワクワクの中に潜む現代批判

世界一有名だけど中はだれも見たことがないワンカ氏のチョコレート工場に、ある日、5人だけが招待されることに……。けれども、主人公のチャーリーは貧乏で、チョコレートを買えるのは年に1回だけ。金でできた招待券が入ったチョコレートを運良く買えたのは、食べることが大好きな男の子オーガスタス、お金持ちのベルーカ、四六時中ガムを噛んでいるバイオレット、テレビに夢中のマイク、そして……。


チョコレートが流れる川と、砂糖菓子でできた草原に始まるチョコレート工場には、「なめられる壁紙――子ども部屋用」「チョコレート・ミルクを出す乳牛」など、たくさんの魅力的な部屋が並んでいます。チャーリーたちと一緒に工場を探検しているようなワクワク感に包まれ、工場で生み出される奇想天外な商品がほしくなってしまう作品です。


けれども、実はワクワクの中にはダールの現代風刺が効いたブラックユーモアがふんだんに盛り込まれています。チョコレートの川に流れる製造中のチョコレートを飲んだオーガスタスに起きた悲劇や最新鋭のテレビに映ろうとしたマイクに起きた悲劇など、一緒に招待された4人には次々に悲劇が起きてしまうのです。チャーリーの「賢明な受動性」ともいわれる性格が現代社会には求められているのかもしれません。


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