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春の気持ちはどんな色? ~春に読みたい絵本・児童書3選~


春。それは「桜」や「入学式」「新しい友達」といった言葉から広がる心地よく爽やかで楽しい季節……なだけではありません。


なぜなら、スギやヒノキの花粉が私の目鼻口を容赦なく攻撃し、集中力と思考力を奪い去ってしまうから。……というわけではなく、(もちろん花粉症はかなり辛いのですが)春には様々なとらえ方がある、というのが今回のテーマです。


厳しい冬を乗り越えて迎える黄緑色の春、新学年で誰とも喋れずただ窓の外を見つめる灰色の春、公園の草花が無残に摘み取られているのを発見する紫色の春……。


本を通して、ちょっと変わった色の気持ちを感じる春にしてみませんか?


わすれられない おくりもの

スーザン・バーレイ 作・絵

小川仁美 訳

評論社


春はただ、明るいだけの季節じゃない

冬の初め、賢くて皆に慕われていたアナグマが「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら アナグマより」という短い手紙を遺して死んでしまいます。長い長い冬の間、残された動物たちは友を失った悲しみに打ちひしがれます。しかし、春になり、互いに行き来できるようになると、それぞれのアナグマとの思い出を語り合ううちに、皆はアナグマが死んでもアナグマにもらったかけがえのない宝物の存在に気付くのです。


長年読み継がれてきた名作は、往々にして厳しく苦しい出来事を乗り越える助けとなるのですが、本書も例外ではありません。「死」と真正面から向き合った作品にしか生み出せない深い感動は、「死」について改めて想いをめぐらし、大切な人に思いをはせるきっかけとなるのではないでしょうか。



たのしい川べ


石井桃子 訳

岩波書店


染み込む言葉の美しさ

詩人でおおらかな川ネズミとのんきで純朴なモグラ、頼りになるリーダーのアナグマ、そして調子乗りでうぬぼれ屋のヒキガエル。そんな4匹が美しいイングランドの田園の中で繰り広げる物語です。本作で際立つのが、抒情的でしなやかにつづられる風景描写です。例えば、冒頭でモグラが初めて川と出会う場面。



生まれてから、まだ一度も、川を――このつやつやと光りながら、まがりくねり、もりもりとふとった川という生きものを見たことがなかったのです。川はおいかけたり、くすくす笑ったり、ゴブリ、音をたてて、なにかをつかむかとおもえば、声高く笑ってそれを手ばなし、またすぐほかのあそび相手にとびかかっていったりしました。(中略)川全体が、動いて、ふるえて――きらめき、光り、かがやき、ざわめき、うずまき、ささやき、あわだっていました。


子どもの目線に合わせつつ、春の川の軽やかさが豊かに表現されています。英語の原題も"The Wind in the Willows"と韻を踏んで美しいのですが、そんな原文の良さをそのままに日本語の心地よさも織り交ぜて美しく訳されている作品です。また、刺さる名言が散りばめられているので、ぜひお気に入りの言葉を探してみては?



豚の死なない日


ロバート・ニュートン・ペック 作

金原瑞人 訳

白水社


豊かな人生を問うYAの名作

「4月のあの日、ほんとうならぼくは学校にいなくちゃいけないはずだった」こんな書き出しから始まる本書は、アメリカのヤングアダルト文学の傑作。


質素な生活を送るシェーカー教徒の家で育ったロバートの「少年」から「1人の男」への成長を描いた作品で、貧困や性、死といったヤングアダルトならではの忌避されがちなテーマと向き合った1冊です。


牝牛の出産に立ちあうところから物語は始まり、そこで生まれた子牛を自分のものにして成長を見守り、最後にはその死――それもロバートと彼の父親自身の手による屠殺――を目の当たりにします。こうして命と向き合うロバートに父親がかけた言葉が胸に刻まれます。「これが、大人になるということだ。これが、やらなければならないことをやるということだ」そして、そんな誇り高く生きた父親も、とうとう……。


貧しいながらも豊かな人生を送る、そんな彼らの生きざまは私たち読者に強烈な読後感を抱かせます。読書感想文にもお勧めです。

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