紅葉が山々を赤や黄色に染め、さわやかな風が木の葉でメロディーを奏でる、そんな秋は「芸術の秋」とも呼ばれます。言の葉で綴られた物語も芸術です。暑さも過ぎた秋の夜長にを本を片手に過ごしてみてはいかがでしょうか?
「絵」で広がる本の世界という特集ですが、今回は「絵本」は紹介していません。もちろん、色彩の美しい絵本や細部まで描き込まれた絵本、デザイン性に優れた大人向け絵本など、芸術を体現する絵本もたくさん世に出ています。しかし、今回は、あくまでも物語が主役となる幼年童話を2冊紹介します。絵があるからこそ、文章が引き立つ、そんな相乗効果をお楽しみください。
『はろるどとむらさきのくれよん』
クロケット・ジョンソン 作・絵
岸田衿子 訳
文化出版局
一本の線が生み出す物語
「はろるどはあたまがいいし、むらさきのくれよんをもっている」そんなはろるどはある日、「つきよのさんぽ」がしたくなり、自分の紫のクレヨンで月の絵をかき、その下に道を描きます。その道は野原を抜け、森へと入り、海へ出たら、今度は山へ……。窓の絵をさらに広げてビルにしてしまうなど、はろるどの頭の良さも垣間見え、絵をたどっているうちにストーリーがすとんと体の中に入ってくるような感覚になります。
私は幼いころ絵画教室に通っていたのですが、そこで空想の世界を画用紙いっぱいに広げていたのを思い出す絵本です。子どもだからこそクレヨンの絵が「夢」になり、それでいて「現実」にもなるのだと思いますが、そんな空想の力を子どもも大人も楽しめる作品です。これは、『おおきなおおきな おいも』と同様、幼年童話だからこそ出せる味なのではないでしょうか。はろるどのクレヨンの色が紫なのもなんだか神秘的で、作者の色彩感覚にも脱帽です。
『ももいろのきりん』
中川李枝子 作
中川宗弥 絵
福音館書店
夢にあふれた元気な物語
お母さんからもらった大きな桃色の紙を切り抜いてるるこが作ったのは、大きくて世界一きれいなキリン「キリカ」です。目と口をクレヨンで書いてもらってしゃべりだしたキリカは、部屋に入りきらなかったので首を窓の外に出していました。すると、夜の間に雨に濡れてしまい、桃色が薄くなってしまうのです。そんなキリカに色を塗るため、るるこはキリカの背に乗って遠くの山にあるという「クレヨンの木」へ向かい……。
工作した何かが動き出して……、というストーリーはたくさんありますが、この作品は出版された1965年から半世紀以上も愛され続けているほどの名作です。工作が好きで、いろいろなものを段ボールや空き箱で作っていた小さい頃の私ももれなくドはまりしたのを覚えています。はじめ色の少なかった世界から少しずつ色が増えていくなど、中川李枝子さんと夫の中川宗弥さんによる子どもたちのための工夫も満載。女の子のほうが共感しやすいかもしれませんが、るるこの男勝りなほどに元気はつらつとした姿は男の子も夢中になるでしょう。快活なるるこから元気のおすそ分けをもらったような気分になる作品です。
ご覧いただきありがとうございます。こちらの記事は児童書紹介フリーペーパー「月あかり文庫」vol.3にも掲載予定です。