top of page

再発見 子どもの本は百薬の長



子どもにとって、絵本や児童書を読むことの意味とは何でしょうか? 教育的観点などから、大人にとっての読書とは異なるように感じられます。


そこで、創刊1周年を記念して初心に返り、フリーペーパーの存在意義である、絵本や児童書の効能を、専門書や論文などを参照しながら問い直してみたいと思います。


※文章の都合上、本文中に引用元を示すことができませんでした。必要に応じて本記事末尾に付する参考文献リストをご参照ください。



楽しむ

子どもはなぜ本を読むのか、それは純粋に楽しみたいからです。だからこそ、現代の(良い本と出会えなかった)子どもたちは手軽に楽しめるテレビやゲームに流れてしまうのです。


「次は何が起こるんだろう」という期待と驚きを胸に読み進めるうち、子どもたちは物語に入り込み、その世界の風を感じながら主人公として「生きる」ようになります。


これが大人の読書との大きな違いかもしれません。まもなく17歳になる私ですが、大人になってしまうと、物語を堪能しつつも、外側から批判的に物語を眺めるようになってしまうのだ、と気づき始めました。



想像力

読書は他の媒体よりもより良く想像力を育てます。言葉で書かれたその場の情景や登場人物の気持ちを(時には挿絵を手がかりに)自分の頭で空想し、次の展開を予想することで想像力が養われるのです。


想像力は決して無意味な夢物語に浸るためだけのものではありません。未来を予測して計画を立てたり、対人コミュニケーションで相手の気持ちに配慮したり、現実社会でも万人に必要な能力なのです。



自己形成

本を通して多様な考え方や文化に触れて世界を広げることは、自他を比較することに繋がります。また、主人公や語り手など他者の意識に入り込み、同時にそれを自己という外側から観察することができるようにもなります。


つまり、読書によりメタ認知能力(自己を客観的に観察し制御する能力)が向上し、内的コミュニケーションを繰り返すことでアイデンティティーも深まります。これは特に思春期に触れるYA文学が大きな役割を果たすのかもしれません。



生き抜く力

児童書や絵本の世界で主人公が巨悪に打ち勝ったり障害を乗り越えたりするのを、子どもたちは疑似体験します。こうして物語は人生における本物の試練をいかにして乗り越えるべきか身をもって示してくれ、読者は自然と自信を持つことができるようになるのです。


また、もし現実で苦難に打ち負かされそうになったとしても、本が支えてくれます。住みたくなる街や村、信頼のおける大人、親友になってくれる主人公が、いつでも本の中で待っていてくれる。こうしたかけがえのない本が用意する居場所が、子どもたち1人1人に与える安心感は計り知れません。



知性

もちろん、図鑑など知識の本を読んで世界の仕組みを知ることができるのは、何にでも疑問を持つ子どもたちにとって大変役に立つことです。伝記などを読むこともこれからを生きる道しるべとなるでしょう。


しかし、たとえフィクションであっても、読書は別の角度から知性を育ててくれます。本は、言葉を追うことによる疑似体験から、広い視野と好奇心旺盛な眼、この世の神秘や美を愛でる態度をもたらします。こうした力は想像力と両輪になって子どもを成長させてくれるのです。


真善美

絵本・児童書は人生経験の少ない子どもたちに人間の真理や善き生き様、美の神秘といったことを物語を通して伝え、感性を磨いてくれます。そして子どもたちはそんな本を無意識のうちに求めているのです。


子どもたちは、人間や人生の本質を抽出した昔話で人生を切り抜ける知恵を知らぬ間に身につけ、過不足のない絵と文が深く融合した絵本の読み聞かせで根本的な愛と美徳を学びます。このおかげで、子どもたちは現代の不安定な価値判断に惑わされず、芯の通った人間に成長していきます。


本を通して豊かな感性を育て、そこで得たものを、現実世界に希望を見出す糧とするのです。



良い本

良い本とはどんな本か。人によって答えは様々で、基準が1つに定まるとも思えませが、時代という壁を乗り越えて長年読み継がれてきた本であることは共通している気がします。


しかし何といっても、良い本が何であるかは子どもたち1人1人によって異なります。つまり、ある子どもがある本を読んだことによって何らかの貴重な経験をして成長し、心が動いたことを楽しみ、人間形成が一歩進んだとき、はじめてその本がその子どもにとって「良い本」になる、ということです。



参考文献一覧

アンドリュー,デュアー「読書が子どもの発達に及ぼす影響 The Effect of Reading on Child Development」(『東海学院大学紀要』7,pp.261-267,2013)

神宮輝夫『児童文学の中の子ども』日本放送出版協会(NHKブックス),1974.

スミス,H,リリアン『児童文学論』石井桃子,瀬田貞二,渡辺茂男訳,岩波書店,2000.

コリン,ソルター『世界で読み継がれる子ども本100』金原瑞人,安納令奈訳,原書房,2020.

鶴田由紀子「児童文学と子どもの心的成長」(『創大教育研究』16,pp.65-74,2007).

松岡享子『子どもと本』岩波書店(岩波新書),2015.

山元隆春編『読書教育を学ぶ人のために』世界思想社,2015.

脇明子『読む力は生きる力』岩波書店,2005.

脇明子『読む力が未来をひらく 小学生への読書支援』岩波書店,2014.

閲覧数:102回

最新記事

すべて表示
bottom of page